2024.02.13

【クリエーターたち】ロボットクリエーター 宮里孝希 インタビュー

2024.02.13

インタビュー・構成・撮影:中村一

「つくりたい」という想いを胸に挑戦を続ける、色とりどりのつくり手たち。
困難や失敗を乗り越えて、想い描いたビジョンをカタチに変えていく。工夫や探求を積み重ね、新たな価値を生み出していく。そんな、つくり手という生き方。その軌跡と想いをひも解くインタビュー。
今回は、ロボカップジュニアで活躍するロボットクリエーター、宮里孝希さんにお話を聞きました。

宮里・孝希(みやざと・たかき)
岐阜高専電子制御工学科3年生。2014年からロボカップジュニアに出場。当初はサッカー競技をやっていたものの、2022年からレスキュー競技に転向。国際大会 RoboCup 2023 BordeauxにてRescue Maze Best Poster賞を受賞。現在はRCJ Rescue Maze Team「たのロボ!」にて活動中。

しろくま胡瓜 @shirokuma89dev / たのロボ! @TanoRoboRCJ
しろくま胡瓜 @shirokuma89dev
たのロボ! @TanoRoboRCJ

深まるロボット作りへの興味、広がる知識

――― ものづくりを始めたきっかけ、ロボカップジュニアを始めたきっかけは?

小学校1年生ぐらいのときに、図書館での工作教室で、モーターを使った簡単なおもちゃを作る機会があり、そこで技術に興味を持ちました。帰ったあとにそのおもちゃを分解して、モーターに画用紙で作ったプロペラをつけて、どういうプロペラが一番風を起こせるのかを試したりしました。それが最初の最初だと思います。
その後、「TJ3B」というロボットを祖父に買ってもらいました。ブロックでプログラミングする教育用のロボットです。ただ、ロボット単体で動いてもあまり面白くないので、コミュニティを探しました。それで辿り着いたのがロボカップジュニア(以下、RCJ)でした。

――― 小学生にとってRCJはハードルが高くありませんか?

そうですね。ただ、当時のRCJは今ほど盛んではなく、競技人口が少なかったので、1年目で全国大会に行けちゃったんです。1年目なので、何もむずかしいことはせずに、ちゃんと動くものだけを作ったら準優勝して駒を進めてしまって、そこからもう味をしめたみたいな感じで。

――― ハードウェア設計以外にも、回路設計やソフトウェア、チームマネジメントもできるようですね。幅広いスキルをどのようにして身に着けましたか?

必要だから身に付いたって感じですね。よく海外に放り投げられると自然と英語が身に付くと聞きますが、それに近いです。ロボットを作るためには回路が必要となれば、回路を勉強しなきゃいけない。勉強とはいっても、ネットに落ちているものを実際作ってみるだけなんですけどね。でもそれが蓄積されて自分でもできるようになりました。

――― これだけのロボットを作るには、かなりの時間がかかると思うのですが、学業とのバランスはどのようにしていますか?

結構まずい感じになってて(笑)。試験週間じゃないときはロボットを優先してしまっています。進級できないのは論外なので、進級できる範囲内で成績を確保しています。

「粘土」にじっくり時間をかけるロボット作り

――― プレゼンシートを見ると、コンセプトが最初のほうに書かれていますが、ロボット作りもコンセプト作りから入っているのですか?

いきなり作り始めると失敗するのが目に見えていたので、コンセプトなどを思考する過程を一旦挟むようにしています。設計についても、僕は勝手に「粘土」と呼んでいるのですが、寸法をあまり気にせずに、まずはラフに描いてみます。それを繰り返して、これでいけそうだと感じたら製作に取り掛かります。この機体の設計は2週間ぐらいかかっているのですが、粘土の段階に最も時間を費やしています。

2023年にフランスで開催された世界大会で「最優秀ポスター賞」を獲得したプレゼンシート。最初に英文で作成して、そのあとで日本語版を作成している。

レスキューロボット「INUWASHI(いぬわし)」。どんな状況でも安定して動くことを最優先に設計されている。

足回りは機体の中で最も開発コストがかかっているという。組み立ても1個で3時間。バリ取りも入れたらもっとかかるという。

彼は個人でKitMill BT100を所有。学校ではKitMill SR420を所有しており、それと併用して部品加工を行っている。一枚の板材の中にたくさんの部品を収めるためにAutodesk Fusionの自動整列の機能を使っている。

ロボット作りで鍛えた"あきらめないメンタル"

――― ロボットを拝見すると、完成度が高く見た目も美しいと感じますが、大会当日にトラブルになったことはありましたか?

去年の全国大会ではアクシデントが多発して、本当にギリギリで勝った感じですね。RCJの経験は長くても、レスキューという種目は1年目だったので、ノウハウを持っていませんでした。会場で試してみたら足回りの走破性能が足りなかったので、その晩、担当にできる限りの改造をしてもらいました。そのあいだにアルゴリズムを全て新しいものに作り変えました。寝る時間はありませんでした。今考えられる最善のアルゴリズムを作って、次の日の午前中にチューニングしたら何とか動きました。すごい経験になりましたが、もうしたくないです(笑)

――― それまでは安定していて動いていたのに、会場に持っていくとなぜか動かないってことありますよね。

それまでずっと安定して動いていたギアが、会場で急に壊れたことがありました。しかも2個。2個ですよ。今まで1回も壊れなかった部品が、2個同時に壊れるっていう。会場が「金城ふ頭」っていうところなんですが、金山まで電車で行って、3Dプリンタを持ってる人に「これ造形してください」みたいな。

――― それは本当にメンタルが強くないとできないことですね。

高専ロボコンに出場したときも同じようなことがありました。試合前日の夕方6時ごろになって、「HDMIキャプチャー」が必要になったことがあったんです。もしかしたら大きな家電量販店なら売っているかもしれない。閉店時間を考えると近隣の全ての店には行けない時間帯で、行けるとしても2ヶ所だけでした。でもそれを買いに行ったら自分がピットから抜けてしまう。判断に迷いました。でも思い切って出掛けてギリギリで見つけることができて。次の日何とか間に合ったみたいな。

――― そういう困難をいくつも乗り越えてきた孝希君ですが、チームメイトからみて彼はどんな人ですか?(チームメイトの鷲見君への質問)

彼はロボット作りに長年取り組んでいるということもあって、ハードウェアにもソフトウェアにも長けています。とても頼りになる存在です。機械的な考え方をしているので「人間じゃない」と思うこともありますが、普段いっしょに過ごしていると、ときどき抜けた行動をしたり、変わったことをしたりと、人間らしい一面もあるので、そういうところを見ると安心します。笑

RCJ Rescue Maze Team「たのロボ!」メンバー。左から宮里孝希さん、鷲見深凪さん、髙井鏡士朗さん。全員が世界大会の経験を持っている。世界大会上位入賞を目標に活動中。

残す人をちゃんと残す。人とのつながりの大切さ

――― これからものづくりを始める人へアドバイスがありましたらお願いします。

とりあえず始めてみることではないでしょうか。3Dプリンタで作られたものを見てしまうと、それがなければ始められないと思ってしまいがちですが、手加工からスタートしてもよいと思います。僕自身も5年ぐらいは手加工だけでロボットを作っていました。のこぎりで板を切って、形がうまく出来上がらなければ、何度もやり直したり。道具よりもまず、「今あるもので作ってみる」という、ものづくりの体験をすることが何より大切だと思います。

――― 最近、手を動かしてものをつくる人が減り、AIやDX、IoT、プログラミングなど、実体のないものに関わる人が増えていると感じますが、どのように感じていますか?

その傾向はあると思います。RCJでも参加者が少し減っている印象はあります。ただ、実体のないものも最終的には実体を伴う形で人間に提供されますから、ものづくりは、これからもずっと価値あるものだと思います。ソフトウェアやアプリの開発に携わっている人のことはとてもリスペクトしています。その分野から入った人には、「一回実体のあるものを作ってみるのも面白いんじゃない?」というお誘いはしてみたいですね。

――― 私たちオリジナルマインドでも、顧客別の売上比率を見ていると、個人が減り法人が増えています。ものづくりをする人がこれからも減っていくとしたら、どうなっていくと思いますか?

残る人はちゃんと残ると思います。大切なことは、残りそうな人をちゃんと残していくことだと思います。たとえば、RCJでも1年目で離脱してしまう人がいます。なので、最近は交流する機会を増やして、繋がりを大切にしていますね。一緒にお昼ごはんを食べるだけでも全然違うと思います。
僕自身もロボット教室に通っているときは同じようにしていただけました。その人とのつながりがなければ、RCJにも出会ってないですし、ロボット作りだけではなく、プレゼンシートの作り方を教えてもらったり、ご飯も食べに行ったりしました。それがあったからこそ、この世界に残り続けることができたと思います。

宮里さんたちがいつもロボット製作活動をしている岐阜高専内の部屋にて

デバイスを作る側と利用する側の橋渡しをしたい

――― プレゼンシートの文章を読んだとき、ガチガチの技術者という感じの書き方ではなく、柔らかい感じがする書き方だと感じました。意識してそのように作っているのですか?

少し意識しているところはあります。高専に入って技術的な文章に触れたとき、第一印象が「とっつきにくい」でした。プレゼンシートは論文ではなく、見てもらうためのものなので、とっつきやすい文章にした方がよいと思ったんです。将来製品とかを開発することになった場合も、使うのは技術者ではありませんから、一般ユーザーの感覚をちゃんと持ち続けたいというのはありますね。

――― プレゼンシートはIllustratorやInDesignで作っているとお聞きしましたが、そういえば先日、adobeイベントを見学したという投稿をXで見かけました。見学の目的は何ですか?

トップ企業の基調講演というものをちゃんと見てみたかったんです。とても手が込んでいると思ったので、どのように作っているのかということに興味がありました。ふだん接点のないクリエーターやデザイナーがどんな思考で仕事を進めているのかについても興味がありましたね。
話を聞いて意外だったのは、クリエーターたちが理論に基づいてデザインしているのかと思いきや、「こっちの方が今風だからかわいい」というような、直感に従って意思決定していることが多いという点でした。それくらいのノリでいいんだと知れたことは新鮮な発見でした。

――― 技術の世界のみならず、いろいろな分野に興味をお持ちだという印象を受けますが、将来の夢は何ですか?

「将来の夢」というと、なりたい職業の話になりがちですが、僕はそれは本質ではないと思っています。僕はデバイスを作る側とデバイスを利用する側の橋渡しをしたい。よく使いにくいシステムとかUIってありますよね。それらは開発者にとっては使いやすいものかもしれません。なぜなら彼らはそのシステムの開発者であり、操作をよく理解しているからです。でも、一般ユーザーが求めているものは、もっと直感的に使えるものです。今後どんどん機能は増えていくし、AIに変わっていくところも増えていくと思いますが、それらをユーザーにとって使いやすいものにしていくことが大切です。
「AIが仕事を奪う」という話がありますが、そのAIは元々何を学習したかといえば、人間の営みですから、AIと人間は切っても切り離せないものです。学習させたものをいかに人間に還元するか、その方法を摸索することがこれからの大きな課題だと思っています。

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