2023.12.07

【クリエーターたち】澤口眼鏡舎 澤口亮 インタビュー

2023.12.07

インタビュー・構成:高山祐輝|撮影:菅原康太

「つくりたい」という想いを胸に挑戦を続ける、色とりどりのつくり手たち。
工夫や探求を積み重ね、見たことのない表現を追求する。困難や失敗を乗り越えて、新たな価値を生み出していく。そんな、つくり手という生き方。その軌跡と想いをひも解くインタビュー。
手づくりオーダー眼鏡フレーム工房「澤口眼鏡舎」を立ち上げ、お客様に寄り添いながら1本1本をつくり込む眼鏡作家、澤口亮さんにお話を聞きました。

澤口亮(さわぐち・まこと)
眼鏡作家。電機メーカーのプロダクトデザイナーを経て、2019年、手づくり眼鏡フレーム工房「澤口眼鏡舎」を川越に設立。オーダーメイド方式でお客様一人一人と向き合いつつ、眼鏡のデザイン、設計、製作、販売の工程全てを一貫しておこなっている。

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「かける人を引き立てる上質な眼鏡」をテーマに、手仕事が生み出す面や稜線にこだわって、一人一人に合わせて眼鏡をつくっている「澤口眼鏡舎」。お店に並べられたサンプルから好きな形と色を選んで、試着した姿を鏡で確認し、澤口さんに相談しながら自分の眼鏡を決めていく。気に入ったフレームが見つかったら、顔の計測(瞳孔間距離、顔の横幅、耳までの長さなど)を行い、一人一人に合わせた眼鏡をつくってもらうことができる。

独学でつくり始めた眼鏡

――― 独立する前はどんな仕事をしていましたか?

元々、公共設備や通信機器をつくっている電機メーカーでプロダクトデザイナーをしていました。新人の頃は銀行で使われる登録機や高速道路の非常電話など公共向け製品のデザインしていて、銀行へ行ってヒアリングしたり、高速道路に行って実証したり、自分たちで使いやすさを検証しながらものづくりをしていましたね。
しかし社内ではワープロやパソコンもつくっていて、同期のデザイナーがそういった、かっこよさを表現できる個人向け製品のデザインをしていると、「いいな、自分もやってみたい」と思うようになりました。ある時、個人向けの製品をまかされそこからはずっとPCモニターや携帯電話、スマートフォンなど個人向け製品のデザインをやってました。

――― なぜ眼鏡をつくり始めたのでしょうか?

自分の眼鏡をつくりに行った眼鏡屋さんで、パーツを自分好みに付け替えられるセミオーダーの眼鏡を見つけたんです。話を聞くと、店舗の2階でつくっているとおっしゃっていて「眼鏡って自分で作れるんだ」って知ったのがきっかけです。そこからはネットで眼鏡がつくられる動画を見て「手作りするならこうするな」って作り方を考えたり、眼鏡を見ながら「ここどうやって作るんだろう」って考えて、とりあえず1本作り上げました。最初の眼鏡は自分の眼鏡のレンズを外して、そのレンズがはまるように眼鏡をつくりました。普通とは逆の作り方ですし、CNCもまだ持っていなかったので糸鋸で生地を切り出していました。
1本眼鏡ができると、足りない事やもっとこうすれば良くなるという事がどんどん見えてきて、自分でも使える卓上CNCを探したり、展示会へ行って鯖江の会社に材料の調達をお願いして回りました。楽しくてとにかく動きました。

――― つくるモチベーションは何だったのでしょうか?

「1本眼鏡ができた、これが自分でつくれる」という喜びです。最初はただ綺麗な樹脂の板だったものが、切り出して、曲げて、削って、磨いていくことでものすごく綺麗で立体感のある眼鏡になるんです。「綺麗だなぁ」って自分でも言ってしまいます。これが何とも言えない醍醐味です。

澤口さんの眼鏡フレーム。光がつややかに映り込む

機械と手仕事、それぞれと向き合う

――― 綺麗な眼鏡はどのようにして生まれるのでしょうか?

自己満足の域かもしれませんが、細部までクォリティー重視のつくり込みをしてます。
精度が必要な生地の切り出しや、ヒンジを取り付ける溝の加工は「KitMill RZ300」で行っていて、生地の柄に合わせて綺麗に見えるよう切り出す場所を変えています。生地も1枚1枚厚みにばらつきがあるので、削り量を1本づつ調整していますね。特にテンプル(耳にかける側)は樹脂の中に金属の芯材が入っていて、この部品のヒンジ溝は芯材の中心に加工したいんです。なるべく正確に削れるようにしています。
眼鏡の表面には手作業で少し丸みを付けているのですが、樹脂板は平らなので、生地を切り出してからやすりで丸みを付けています。平らだと引けて見えるので、少し丸みをつけると光の反射がきれいに出るんです。市販の眼鏡は同じ商品を大量に作るので、やすり掛けする職人によって丸みが違ってしまったり、CNCで加工でしようとすると時間もかかるので、こういうことができないんですよ。1本1本違う、オーダーメイドだからこそできる良いところとしてやっているわけです。

――― 工房に専用の機械や治具が並んでいますが、どのように選んだのでしょうか?

大きな眼鏡の工場に行くと、多くの工程が大きな機械を使って自動化されているんですが、私は少量生産なので自動化する部分、古い小さな機械を使う部分、自分の手で加工する部分それぞれを大切にしています。
CNCは精度も大切ですが、丈夫さや、長く使う為に自分でメンテナンスできることも大切だと思って「KitMil RZ300」を選びました。CAMソフト上での設定や部品交換、グリスも自分で塗っています。
フロント(レンズがはまる側)とテンプル(耳にかける側)の合わせ部分を加工する工程は、縦フライスに専用の治具をつけています。治具の部分は鯖江のメーカーさんに眼鏡づくりを認めていただき、特別に治具を作ってもらいました。手で治具を押さえながら加工する古い道具で、押さえる強さで削り量が変わるような道具ですが、逆に1本1本違う眼鏡をつくっているので手の感覚で削り量を調整できるラフな道具の方が都合が良いのです。
美しさを作り出す表面のやすりがけや磨きは、棒やすりを使ったりバフを使って手の感覚でやっています。デザイナー時代、手で発泡材を削ってモデルをつくっていたこともあるので、手でやる方が早くできます。今は機械を使っている工程も、以前は手でやっていた部分もあります。つくるものと目的にあわせて、日々試行錯誤を続けながらつくり続けています。

澤口さんの工房。ラジオや食事も楽しみながらつくることで良い作品が生まれる

自作のブロワが取り付けられた「KitMill RZ300」

「KitMill RZ300」で切り出した眼鏡のフロント

ものづくりからことづくりへ

――― ヨーロッパビンテージや昭和風といった雰囲気を感じる眼鏡が多く並んでいますが、どのようにデザインしていますか?

いつも眼鏡をデザインする時はかけている時の雰囲気を大切にしています。例えば、50年代のアメリカを舞台にした映画を観ていていると、フォックス型の眼鏡(両端が釣り上がった形)をしている人が出てくるんです。眼鏡をしている人の着ている洋服やしぐさも含めていいなって思ったら、そのイメージを覚えてスケッチしています。そのスケッチを元に図面をつくったり、50年代のイメージならこの色かな?って考えながらものに落とし込んでいますね。
昔の雰囲気をモチーフにするときは、今の時代や日本人に合うかも気にしてつくり込んでいます。例えばサイズ感。釣り上がったフォックス眼鏡は大きいときつい印象が出てしまいます。少し小さくして、現代の日常でも雰囲気が楽しめるようにバランスを調整しています。

――― 生地の色がたくさんあり、中間色など珍しい色もありますね

眼鏡の色数もかなり多くしているのですが、ただカラーバリエーションを多くしたいのではなく、似合う眼鏡の要素として色の印象が大切なのでそろえています。お客様の性別や年齢、雰囲気で意外な色が似合ったりするんです。例えばピンク色、意外と若い男性がかけると色気がでたりします。乳白色も単品で見ると派手ですが、少し肌の色が透けると顔になじむので、ちょうどよいアクセントになったりします。
最初はつくることが好きで始めた眼鏡ですが、今はお客様に眼鏡選びを楽しんでいただきたいという思いが一番あります。いかにお客様にあった眼鏡を提案できるか、そこが楽しいです。「この人だったら生地の厚みちょっと薄い方が良いかな」「この色似合いそうだな」って考えてピタッと合うとうれしいですね。形の綺麗さや色数の多さはあくまでも満足してもらうための手段です。自分にぴったり似合う眼鏡を手にする体験を楽しんでいただきたいです。

豊かな気持ちになるものと体験をつなげていきたい

――― 今後の展望を教えてください

良い道具って気持ちがいいんですよね、食器は気に入った作家さんのものを1枚ずつ買ってその日の気分で変えて使っています。同じ料理でもお皿によって味が違って感じたり、盛り付けを頑張っちゃたりしますよね。芸術品の価値は分かりませんが、味があって使うときに気持ちが豊かになるものは好きなんです。決まった規格で効率よく作られるものも悪くはないですが、贅沢品だと思うと味気なく感じてしまいます。私の眼鏡も、かけることで自信が湧いたり、休日を楽しんだり、自分のキャラクター表現を選ぶところから楽しんでいただきたいです。
オーダーメイドの眼鏡ってけして最新のテクノロジーではないですし、お客様と眼鏡を選ぶ時間やつくる時間もかかります。仕事としては効率も良くないかもしれないです。しかし、お客様一人一人似合う形も、色も、サイズも違います。そこのニーズに手が届くことは他ではやっていませんし、出来上がった眼鏡を本当に喜んでいただけるので、この仕事を絶やしてしまうのはもったいないなと思っています。後継者を育てることを考えたり、他の眼鏡屋さんとも協力してこの感動をもっと多くの人に楽しんでいただける策を練っているところです。

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