2023.12.27

【クリエーターたち】フジイオプチカル株式会社 藤井太 インタビュー

2023.12.27

インタビュー・撮影:高山祐輝

困難に立ち向かい、ものづくりで社会に貢献するつくり手たち。その想いと軌跡をひも解くインタビュー。
眼鏡のまち鯖江で、寸法では表すことのできない「良い眼鏡の感覚」を大切に、かけ心地やデザインを追求し続ける藤井太さんにお話を聞きました。

藤井・太(ふじい・だい)
フジイオプチカル株式会社 専務取締役。金属加工会社を経て2013年入社。経営業務にとどまらず、3DCADによる設計からCNCマシニングセンタでの加工、出荷業務まで多岐に携わる。

フジイオプチカル株式会社
1950年、藤井眼鏡製作所として福井県鯖江市に創業。快適なかけ心地を実現する素材「βチタン」のフレームを得意とし、プレスから切削・磨き・ロウ付けなど多くの生産工程を自社内で行っている。OEM生産にとどまらず、ビンテージデザインの「昇治郎」、ベーシックデザインの「BELCOM eyewear」などオリジナルブランドも展開する。

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目の前の課題に真摯に取り組む

――― フジイオプチカルさんの成り立ちを簡単に教えてください

金属のフレームを得意とする製造メーカーとなります。1950年、藤井眼鏡製作所として福井県鯖江市に、私の祖父である藤井昇治郎が創業しました。創業当初は樹脂のフレームを作っていたのですが、売れ行きが良くない時期があり、当時市場から求められていた金属のフレームの生産を始めました。私はまだ生まれていなかったのですが、金属のフレームを始めた当時は、設備を導入して、とにかくつくって販売していく事を必死にこなしていたそうです。徐々に品質を追及できるようになり、色々なチタン合金を試した中でも、強度がありながら軽く、手で曲げた形を記憶して顔にフィットする「βチタン(DAT51)」のフレームにたどり着きました。

――― 地域内分業が進んでいる鯖江で、社内に多くの生産工程を持っていたり、自社ブランドを持っていることは珍しく感じます

確かに鯖江は昔から分業が進んでいて、地域で協力しながらものづくりをしていた歴史があります。しかし、一昔前から職人の後継者がいなくなってしまい、外注してものが作れない状況が起こってきてしまいました。外注先が見つからないと納期や品質が安定せず、お客様に良い物がお届けできないため、その都度社内で何とかできないかと工夫して、外注していた工程を社内に取り入れて来ました。金属のフレームは、プレスで各部品を成形し、切削機で加工、ロウ付け、磨き、メッキを経て組み立てていきますが、ほとんどの工程を社内で行っています。
自社ブランドは、OEM生産の仕事が少ない時期に売り上げを安定させるために始めたのですが、今はお客様へ安定した品質を提供するためにも大切なものとなっています。自分たちでトレンドを考え、企画し、生産することで社内にノウハウがたまっていきます。良い品質のものが適正な価格でつくれるようになるだけでなく、OEMで生産を依頼された際も、似たようなイメージや形をつくったことがあれば、「この形だと問題が起こりそうだから、こう修正してみては?」と先回りして提案することもできます。

――― ロウ付けの跡が綺麗だったり、生産が難しい眼鏡がラインナップにありますね

生産と企画を内製化しているノウハウが活かされているのだと思います。ロウ付け部分は、熱が短時間で加わる事で、荒れが少ない美しい表面をつくれる機械を自社で開発しました。生産が難しい、例えばコンビネーションフレーム(樹脂と金属の部品が合わさったフレーム)は樹脂の時間経過による伸縮率を経験から見越してつくっています。
品質も良いけれど、価格も手に届きやすいことも意識していますね。例えば海外でつくられたフレームは手に届きやすい価格なのですが、ロウ付け跡が目立つものもあります。同じ鯖江の中では品質は高いけれど、価格も手に届きにくい眼鏡も多くあります。良い商品を適正な値段で提供していくために設備や作業効率を工夫していく。そんなものづくりをしています。

自社開発した機械を使ったロウ付けの工程。ロウ付け跡がなめらかな美しいフレームが生まれる

手磨きの工程。職人が1本1本丁寧に磨いていく

「図面はあくまで基準」感覚を大切につくる

――― 眼鏡をつくる上で、大切にしている事を教えてください。

「良い眼鏡の感覚」を大切にしています。金属のフレームは最初3Dデータで形を検討していくので、生産の条件を入れて寸法を正確に決めることができます。しかしながら多くの人に合わせた眼鏡をつくるためには、ものになった時のフレームの固さや重さ、見た目、寸法には現れない微妙なニュアンスがたくさんあるんです。そういった良い眼鏡の感覚を、つくり続けることで探っています。

――― 「良い眼鏡の感覚」はどのようにして製品に落とし込まれるのでしょうか?

まず、量産に入る前に確認をしていますね。例えば、フレームの曲げ具合を検討する際は、厚みがデータ上で0.8mmだったとしたら、βチタンをプレス機で0.8mmに加工します。それを実際に手で曲げてみて、感覚でちょっと固いなと思ったら0.78mmにデータを修正したりします。
フレームの形は、見た目を正確に確認できるプロトタイプをつくって確認をしています。3Dデータで形をつくり込んだ後、洋白というニッケルと銅、亜鉛の合金を「KitMill AST200」で切削しているのですが、出来上がったプロトタイプをみながら「これは男性向けの製品だから面をもう少し立てようか」「若干Rサイズが大きい方が女性的だよね」と言うように、見た感覚で微修正をしていきます。普通プロトタイプは職人が図面から切り出し機や、やすりを使ってつくっていています。手づくりだとどうしてもエッジが出せなかったり、左右で微妙に違ったりして、見たいと思っていた形を見ることができませんでした。眼鏡は微妙な面の丸さやエッジの立ち方で印象が変わってくるので、正確に確認してから修正することで商品が良いものになって行きます。
生産の工程も、感覚に頼る部分ばかりです。ロウ付けはロウ材が熱で溶けた色を見ながらつくりますし、治具と部品は0.1mmほどあそびを持たせていて、どうくっつけるかは感覚となります。フレームを顔にフィットさせるためのカーブは、最終検査の工程で手で曲げています。基準や図面はあるのですが、図面通りに曲げればよいわけではなく、そもそも「こんなかけ心地が良い」と言ったような「良い眼鏡の感覚」を持っていないとできないんです。
設計も加工も、こういった感覚の部分は長く眼鏡づくりをしていかないと得られないもので、どうすればよいのか頭を悩ませている部分ですが、上手くいって良い眼鏡ができたときはとても達成感を感じますね。

最終検査の工程。長年の経験を積んだ熟練者が「良い眼鏡の感覚」になるよう曲がり具合を微調整する

――― 「KitMill AST200」はプロトタイプ作成以外にも使用していますか?

実は、「KitMill」はもともとCNCの原理を勉強するために導入しました。今は生産に使っている大きなCNCもあるのですが、それを導入するために、CADやCAMの使い方を含めて練習用としてちょっとした立体を削ったりしていました。
実験的な試みもしています。フレームに細かな唐草模様のような柄がついているものがあるのですが、あれは職人が金型にのみを使って彫金していて、プレスで柄を付けています。この彫金ができる職人が鯖江には一人しかいません。もしその職人がやめてしまったら、二度とできなくなってしまうので「KitMill AST200」を使って彫金ができないか試したりしているところです。

設計室に設置された「KitMill AST200」

「KitMill AST200」でプロトタイプを切削している様子。クリップに治具を取り付け、ワークの原点を正確に出せるよう工夫がされている

「KitMill AST200」で切削したプロトタイプ。素材は洋白

上:職人が彫金した金型でつくったフレーム
下:彫金の試作品。細かな唐草模様の再現を「KitMill AST200」で試みた

鯖江のものづくり企業として

――― 職人が少なくなっているとお聞きしましたが、鯖江は眼鏡職人になりたい方の移住も多いと聞きます

職人の数は減ってきてしまっています。昭和60年には300社あった眼鏡製造メーカーも60社程しか残っていません。また、ありがたいことに眼鏡職人を目指す若い人もいるのですが、その人が思う眼鏡職人像と求めている生産工程がマッチするわけではないんです。例えば、眼鏡のフロント(レンズがはまる側)とテンプル(耳をかける側)をつなぐネジを閉める工程。これ一つをとっても独立した職人がいて外注していました。ある一部分の工程を内製化しても、そこに人が集まらないこともあります。
実はプロトタイプの製作も以前は試作屋さんに外注していました。その試作屋さんは、オリジナルマインドの卓上CNCを使って正確なプロトタイプをつくっていたのですが、休業することになってしまい、社内の「KitMill AST200」で試作を始めたわけです。その都度考えて、社内でできるように工夫して、「良い眼鏡の感覚」で作った眼鏡を、「フジイの商品はかけ心地もよく、軽く、壊れにくいから安心だ」と言っていただけると本当にうれしく思います。海外製のフレームが多く出回る中、鯖江製のフレームを手に取っていただける秘訣とは何かを常に考え、目新しさだけではなく安心感を与えられる会社にしていきたいと思っています。

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