2022.04.15

2021年度 第11回「ものづくり文化展」優秀賞 中山桃歌(project SEE MEDICINE) インタビュー

インタビュー:中村一、深沢慶太|構成:深沢慶太|撮影:菅原康太

project SEE MEDICINE/中山桃歌(なかやま・ももか)
インタラクティブ・アーティスト。東京大学学際情報学府 先端表現情報学コース卒業。在学中より、人が人工物に対して生き物らしさを感じる振る舞いについて研究を行う。2020年より、昭和大学医学部の政岡ゆり准教授とともに呼吸の可視化による新しい医療の可能性を模索。日常に潜むわくわくする体験をすくい上げ、精緻化し、新しい体験へと昇華させるべく活動する。主な作品に『iki-mono』(ADAA2017入賞)、『+move 』(SXSW2017出展)、『Nike in water』(東京大学生産技術研究所70周年記念展示「ぞわぞわ展」出展) など。2021年、project SEE MEDICINEとして『SEE MEDICINE』を発表した。

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昭和大学上條記念ミュージアム「昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展」の展示会場にて撮影

優秀賞『SEE MEDICINE』
ペンデュラム(振り子)が体験者の呼吸を反映し、砂の上にリアルタイムな軌跡を描き出す装置。通常は無意識に行われている人間の呼吸を可視化すると、呼吸を意識的に行おうとする反応が現れる。この反応を用いれば円滑な呼吸を促進できるという仮説に基づき、砂絵を見ることで理想的な呼吸へと導く体験を作り出す。ペンデュラムの軌道は2軸上を移動する磁石によって制御される。昭和大学医学部の政岡ゆり准教授とともに、アート作品を活用した呼吸疾患の予防や治療のあり方に取り組んだ作品。
(project SEE MEDICINE アーティスト:中山桃歌|アートディレクター:高橋優|デザインリサーチャー&ビデオグラファー:淺田史音)

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呼吸を砂の模様として描き出すインタラクティブ作品

――― project SEE MEDICINEとして出品されたこの作品『SEE MEDICINE』について、"呼吸を可視化する"というコンセプトを振り子と砂というシンプルな形で表現した点に、深い精神性を感じました。

呼吸をテーマにしたきっかけの一つは、コロナ禍で家に閉じこもる生活が続くうちに、自分の体や健康について考えたこと。大学から大学院にかけてロボティクスや機械の動きについて研究した経験を、体に不調を感じている人のケアに役立てられないかと、思いを巡らせ始めました。そんな時に昭和大学医学部 生理学講座 生体調整機能学の政岡ゆり先生とお会いする機会を得て、私自身にも無意識に呼吸が浅くなってしまう傾向があることに気付きました。また、患者さんに医療にまつわるデータを伝える際に数字やグラフよりももっとわかりやすく、実感しやすい伝え方はないかというお話をうかがって、呼吸を動きで表現できないかというアイデアが浮かんだのです。

――― 映像よりも機構を作って動かすほうが遙かに大きな労力がかかりますが、物理的な動きを使って表現した理由は何でしょうか?

確かに最近は映像を使った表現が当たり前ですが、物理的な動きから感じる情報量には到底及ばないというのが私の考えです。だからこそ、ものが持つ力を表現したいと思っているのですが......労力的には今回の作品も、とにかく実験の連続でした。最初は息を吹きかけたら動くものなどに始まり、呼吸とは関係ないものを組み合わせてみたりと、方法を探っていきました。例えば波打ち際の映像を、息を吸うと潮が引いて、吐くと満ちてくるようにしてみたり。そうしていくうちに動きだけでなく、動きの軌跡も残したいと考え、砂絵という手法に注目しました。
振り子の先で砂に模様を描く仕組みに関しても、動きをどう美しく表現するか、試行錯誤を重ねました。振り子の数も最初は一つから始まって、「自分だけでなく、いろいろな人の呼吸を記録して、それが同時に動いているようにしたい」と考えて、最終的に全部で33個の振り子が並ぶ構成にしました。これまでに群ロボットを作成した経験はあったものの、せいぜい5台程度だったので、実際にやってみて「こんなに大変とは」と思い知りましたね。結局、制作に半年以上かかりました。

昭和大学上條記念ミュージアム「昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展」の展示会場にて撮影

――― 振り子を動かす機構は、どのような仕組みになっているのでしょう。最初は天井側に仕掛けがあるはずだと思い、「どうなっているんだろう?」と不思議だったのですが、台の中に機構が収められていると知って驚きました。

それぞれの振り子の下にXYの2軸のスライダー機構を設置しています。天井側で振り子を動かすことも考えましたが、制御がうまくいかなくて。CNCを使ってXYロボットを作成し、そこに磁石を付けて磁力で振り子を動かす方法にたどり着きました。その後も、見ていて「気持ちいいな」と思えるような制御プログラムを書き上げるまでがかなり大変でしたね。
呼吸のセンシングは、体験者にベルト型の呼吸センサーを巻いてもらい、胸が膨らんだり縮んだりする動きを検出しています。ベルトにひずみセンサーが付いていて、伸び縮みの動きを電気信号に変換し、それをY軸の動きとして表現する方法です。肺活量の測定に用いるようなマスク型のセンサーを使いたいとも思ったのですが、コロナ禍の状況もあり、ベルト型を採用しました。

アートやデザインを包含する、"ものづくり"という評価軸

――― 過去の受賞作を振り返ってみても、人間の生命活動をこのような形で表現したものは、これまでに例がありません。特に呼吸というものは、人の佇まいや考え方にも通じるものがある。それを医療機器のような方法ではなく、ある種の柔らかさを感じさせるイメージで可視化することで、見る人に呼吸の役割や意味を気付かせたり、考えさせたりする力があると感じました。

ありがとうございます。「メディカルデータを数字ではなく、もっとわかりやすく伝える方法」という課題を突き詰める上で、数値から離れた柔らかい表現でありながら、でも噓がなく、さらにデジタルっぽくない方向でどう伝えるかを探っていきました。その点を評価していただけて、とてもうれしいです。「SEE MEDICINE」という命名にも、振り子の動きを見ているうちに、呼吸が整っていくという意図を込めています。日本語の「息が合う」という言葉のように、目の前の人が荒い呼吸をしていたり、息が止まったりしていると、見ている人にも呼吸のパターンが写ってしまうことが科学的にも証明されている。その作用を実験的に採り入れた作品です。

――― 治療にもつながる機能性と、メディアアートにも通じるコンセプトの両方を兼ね備えた作品ですが、「ものづくり文化展」に応募しようと考えた理由は?

大きな背景としては、「ものづくり文化展」の受賞作品が非常に多岐に渡ること。私の作品はこれまで、アート業界の人には「デザイン志向だね」と言われ、デザイン関係者には「もっと最適な手段があるはずだ」と言われてきました。そうやっていつも枠にはまらないものを作ってしまうので、もしかしたら広い視点で評価してくださるかもしれないと思い、応募してみた次第です。

『SEE MEDICINE』の動作風景。昭和大学上條記念ミュージアム「昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展」の展示会場にて撮影

――― 今回の選出理由にもつながりますが、これからのものづくりにおいては"役に立つ"という客観的な価値に代わる、主観的な豊かさが鍵を握るはずだと考えています。その点で中山さんの作品には、新しい豊かさにつながるものを感じました。

実は私自身、役に立つものを作るところから始まって、途中で方向転換した経緯があります。大学では腹腔鏡手術ロボットのアームの先端に付ける鉗子(かんし)の研究室で、制御工学を学んでいました。そもそもロボットに心惹かれた理由ですが、テレビ番組『ピタゴラスイッチ』を見て「動くメカって格好いいな!」と思い、軽い気持ちで工業大学へ入ってしまいました。周りは小学校からロボットを作っているような人ばかりで、苦労しましたね。でもここで鍛えられたぶん、"どう作るか"の基礎を身に着けることができました。
その後は、東京大学の大学院でデザインとエンジニアリングを研究している山中俊治先生の研究室へ進みました。ここで学んだ最も大きなことは、何を作ってもいいけれども、人の心を動かすものを作ること。学部時代とは逆に"何を作るか"を問われているわけで、決まった答えが存在しない。ひたすら考えるなかで、人間が美しいと思うロボットや、可愛いと感じてしまう動きをテーマに作品を制作していきました。

"もの  動き"の探求から、まだ見ぬ現象をつくり出す

――― これまでの作品でも、それぞれにユニークな視点からコンセプトを追求されていますね。

はい。例えば、近づくと逃げる黒い箱の作品『iki-mono』。5台ある箱同士がお互いに作用して、ランダムでカオティックな動きが生まれます。制作を通して、動きだけで生き物らしさを与えたり、可愛いと思わせることができる面白さに気付きました。
次の作品『+move』では同じ動きをハンガーにさせてみたところ、今度は道具に対する先入観が違和感を生むことがわかりました。見た人からは「どうしてハンガーが逃げるの?」「洗濯物が早く乾くから?」と、何の役に立つのかをよく聞かれましたね。でも私は役に立つものを作りたいのではなく、人の心に作用するものを作りたい。その想いを抱えながら、広告会社にテクノロジストとして就職した後も制作を続けています。今は、何とかしてものづくりを仕事にしたいと頑張っているところです。

過去の作品より、『+move』(2017年)

――― 今回の作品は昭和大学上條記念ミュージアムの「昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展」(2021年11月〜22年3月)でも展示されていますが、個人の制作でこれだけの作品を完成させたとは、あらためて驚かされました。

ハードウェアについては確かに個人の着想と制作による作品といえるかもしれませんが、展示については会社と昭和大学の共同研究という側面もあります。それに加えて協力して下さった先生が取り組んでいる呼吸疾患の治療につなげてほしいという想いも大きいです。だからこそ、この作品をもっとアップデートしていきたい。ゆくゆくは、患者さんに使ってもらえるものになっていけばいいなと考えています。
でもその一方で、人間が「生き物っぽい」と感じる動きの実験も、続けていくことに変わりはありません。思わずクスッと笑えるような動きを見つけ出して、ロボットとして表現するために、日々いろいろと実験をしています。

――― それこそが、中山さんの追い求める"ものづくりの道"ということですね。

はい。何よりも「自分で見てみたい、体験して驚きたい」ということが大きなモチベーションになっています。風で洋服がふわふわと舞う作品『Nike in water』を作った時も、CGでは計算できない偶然の動きなど、自分の想像を超えたものが現れた瞬間に大きな喜びがあった。だからどうしても、実際に作らざるを得ないんです。
「計算上はうまくいくはずなのに」とか「思ったよりも摩擦が大きくて動かない」とか、ものづくりをやる以上、失敗は当たり前ですよね。でもそのなかにこそ、逆に思ってもみない動きが現れて、ハッとさせられる瞬間があるはず。この地球上には、まだまだ人間の想像や3Dレンダリングでは計算しきれない現象がたくさんある。それを自分の目で、もっと見て感じていきたいと思っています。