2020.03.06

2019年度 第9回「ものづくり文化展」優秀賞・中村一賞 鍬形篤史&伊藤崇浩(バーチャル・バーチャル・クワマイ製作チーム)インタビュー

インタビュー:中村一、深沢慶太|構成:深沢慶太|撮影:菅原康太

優秀賞・中村一賞『IN CHARAHORA』
ハンコとWebカメラを搭載したアームを備え、"ハンコを押す"という人間の意思表示行為を無責任な機械に行わせることで、その社会的な意味を問いかける作品。Twitterのタイムラインから、ハッシュタグ付きのツイートをランダムに取得して許可証を生成。印刷した許可証に1枚ずつハンコを押し、その書面を撮影、画像をTwitterアカウント「@vv_kuwamai」に自動投稿する仕組み。

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(左)伊藤崇浩、(右)鍬形篤史

バーチャル・バーチャル・クワマイ製作チーム
2019年、千葉工業大学大学院 未来ロボティクス専攻における自由制作課題の作成・提出のために結成。メンバーは、同専攻の鍬形篤史、加藤祐介、柴田生弥、島田拓海、および機械サイエンス専攻の伊藤崇浩の計5名。完成した作品『IN CHARAHORA』を第9回「ものづくり文化展」に応募し、優秀賞・中村一賞を受賞した。

大学院の課題で "ハンコを押すロボット" を制作

――― お二人には「バーチャル・バーチャル・クワマイ製作チーム」の5人を代表してインタビューに応じていただきました。最初に、チームの概要について教えてください。

鍬形:僕と伊藤くんはともに、千葉工業大学の未来ロボット技術研究センター(fuRo/Future Robotics Technology Center)に所属している学生メンバーです。また僕自身は、大学院の未来ロボティクス専攻で自律ロボット研究室に所属しています。具体的には、お掃除ロボットなどが周囲の地図を作成しながら自分の位置を推定する「SLAM技術」や、ロボットの制御OSである「ROS(Robot Operating System)」など、ロボット関連でもソフト寄りの技術を扱っています。

伊藤:僕は同じく千葉工業大学の大学院で、機械サイエンス専攻のメカトロニクス研究室に所属しています。主にハードディスクのスイングアームをナノメートル単位で制御する技術など、日頃からハードウェアを対象に研究を行っています。

鍬形:今回の作品は、未来ロボティクス学科の自由制作課題として制作したものです。どうせ作るなら何か面白い要素を感じさせる、ジョークマシーンのようなものを作ってみたいと考え、みんなで話していてハンコを押すロボットが思い浮かびました。伊藤くんが以前からオリジナルのハンコ作りに取り組んでいて、それを面白いと思ったことなどがきっかけになっています。

伊藤:役所で書類に印鑑を押さなければならず、「持っていないなら目の前の100円均一ショップで買ってきてください」と言われて以来、モヤモヤとした感じが残っていて。人が印鑑を押す意味を考えていく中で、TwitterのQRコードを彫り込んだハンコを作って、スタンプできるようにしてみたいと考えていたんです。その上で今回は、印面の「クワマイ」のアイコンの線を潰さずに加工するにはどうしたらいいか、パスの生成から0.5ミリ径のエンドミルによる切削まで、かなり苦労しましたね。

『IN CHARAHORA』が出力し、ハンコを押した許可証の例。この書面を1枚ずつ撮影し、Twitter上に自動投稿する仕組み。

――― システム制御一つにしても、アームの先の印面に朱肉をまんべんなく付けて、それを正確な位置に印刷するには、相当な技量が必要です。さまざまな技術を結集する必要があると思いますが、チーム内ではどのように分担をしましたか。

鍬形:僕は全体のコンセプトと、アームの制御を担当しています。伊藤くんには、この機材でどこまで削れるか、どの太さのエンドミルを使えばいいかなど、制作面でかなり力になってもらいました。電源をまとめる小さい基板も、伊藤くん自作のCNCで作成したもの。他のメンバーにも、Twitterとの連携や、文章を拾ってきて許可証の画像を生成する部分などを担当してもらっています。

伊藤:これまでにロボットを作ってきた経験が元にあって、「この仕組みならいける」というイメージを思い浮かべて作っていきました。使用機材としては、樹脂部分は3Dプリンターで、ハンコの印面の切削加工はマシニングセンタで精度を出しています。

ハンコに朱肉を付けている様子。タイミングベルトを用いることで、アームの先端が常に並行を保つように工夫している。

技術を結集した "ナンセンスな機械" に込めた想い

――― ツイートを取得して許可証をプリントし、わざわざロボットアームを駆動させて許可印を押すために、それだけの技術を注いでいることに驚かされました。しかもそれをアームの先のウェブカメラで撮影して、画像をTwitterに投稿する。「この作品で伝えたいことはなんだろう?」という不思議な印象が頭にこびりついて離れず、非常に考えさせられました。ちなみに、課題として発表した時はどんな反響がありましたか?

鍬形:学科の先生方に興味を持ってもらえたのは、タイミングベルトを使ったアームの構造や、機構をできるだけ軽くしたこと、アクチュエータをコンパクトにまとめた点などでしょうか。システム的にもマイコンで単純にループさせるのではなく、制御用のフレームワークに「ROS」を採用して「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」でツイートの送受信やアームの制御を処理させています。でも......他のチームは自動演奏装置であったり、タピオカミルクティーを作る機械を発表している中で、みんなからの反応は「よくわからない」という感じでした(笑)。それで、せっかく作ったのだからどこかに出してみようと話し合って、「ものづくり文化展」への応募を決めたというわけです。

――― その時に応募先として「ものづくり文化展」を選んだ理由について、教えてください。

鍬形:これまではいわゆるロボットらしいものを作っていて、テーマ性のある作品はこれが初めてのことだったのですが、メイカー系のコンテストといえば「ものづくり文化展」だと思い、応募してみました。そうしたら思いがけず賞をいただいてしまって......本当に驚きましたね。これまでの受賞作品を見ても、射出成形機だったりトゥールビヨンだったり......。

伊藤:V12モーター搭載の自作RCカーだったり。どれも技術の結晶のような作品ばかり受賞しているのを見ていましたから、「本当に!?」と思いましたね。

――― パッと見て何のための機械なのか謎めいていて、その謎が説明のテキストを読んでも解決せず、頭の中で後を引く感じが離れませんでした。審査員の中では、明和電機の土佐信道社長もすごく気に入っていましたね。

鍬形:そうなんですか! 実は明和電機はすごく好きで、『オタマトーン』は幾つも持っていますし、個人的にそういったナンセンスマシーンの影響も大きいと思います。

――― 審査のポイントでもありますが、これからのものづくりには、技術や機能性を超えたデザインや使い心地に加えて、精神的な価値や影響力につながる魅力が必要だと思います。そうした点で、今回の作品に込めた想いなどはありますか。

鍬形:最初は単純に「面白がってもらえるものを作りたい」という発想でした。制作していくうちに考えたことですが、Twitter上に投稿された許可証の画像だけを見ている人には、このロボットの姿は見えません。許可証を投稿するだけなら、画像を生成するジェネレーターを使えば済む話なのに、あえて大仰な仕掛けを動かしてナンセンスなことをやらせている。ハンコを押すという、意味があるかどうか疑わしい行為を、あえて意思の宿っていない機械にやらせることで、ハンコの必要性やデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの境界などについて考えてもらえたらと考えています。

許可証には元のツイートの投稿者名と、取得した文言が記載され、1枚ずつ「クワマイ」のアイコンが捺印される。

発想 ✕ 技術の融合で描くものづくりのビジョン

――― ちなみに......チーム名の「バーチャル・バーチャル・クワマイ製作チーム」と、作品名の『IN CHARAHORA』とは、どういう意味でしょうか。

鍬形:「クワマイ」とは僕のハンドルネームです。そうするとTwitter上の僕はいわば「バーチャル・クワマイ」、それを名乗る機械的な存在は「バーチャル・バーチャル・クワマイ」になる。それがチーム名の由来です。作品名については、その「クワマイ」のアイコンをハンコとして押す機械を制作するにあたって、世の中的にAIというワードがやたらと使われていることが思い当たりました。無責任にハンコを押すことによって"AIの無責任さ"を表現したくて、「ちゃらんぽらんに」という言葉からの連想で『IN CHARAHORA』と名付けました。

伊藤:鍬形くんは、普段から人が考えないようなことを考えているところがあるんです。一緒に制作に取り組んだものとしては、大学1、2年の頃に小さなロボットを作ったり、去年もチームで四輪操舵の自律走行する台車を作っています。技術的には相当がんばりましたが、でも僕としては、このハンコの機械が一番面白い作品になったと思います。その意味でも、やっぱり鍬形くんの発想はすごいと思いますね。

鍬形:でも僕は逆に、あの台車のインホイールモーターなど、部品を極限まで細かく組み合わせていく伊藤くんの設計はすごいと思った。「僕にはこんな設計はできない。だったら僕らしい発想を伸ばしていこう」と思ったのだけど......今回の課題を発表した翌日にデンソーウェーブが自動押印ロボットを発表して。「ジョークのつもりで作っていたのに、実社会がおかしいことをし始めたぞ」と、すごくびっくりしました(笑)。発想という点では、小学校低学年の頃から空想するのは好きでしたね。ちなみに「クワマイ」のアイコンは、当時の図工の授業をはじめ、自分のシンボルとして使ってきたものです。ナノテクノロジーが発達し、生きた細胞でロボットが作られるようになった未来の地球の支配者のイメージですね。個人的に、まだ誰も考えていないことや、誰もやっていないことをやりたいという気持ちがあるのは確かです。

――― 今後、将来の予定や究極的な目標も含めて、どういうものを作っていきたいと思っていますか。

鍬形:まだ考えているところですが、ロボットを作りたいという想いはあります。究極的には......人にとってコンテンツの究極は、コミュニケーションのような社会性に訴えるものなのかなと思います。そう考えると、機械でありながら人とコミュニケーションができて、人の心に何かを残すような作品を作ってみたいです。

伊藤:僕はものづくりが好きなので、世の中にものを作る人をあふれさせたい。僕自身も作ることに携わりながら、自分にはできない面白い発想をする人の手助けをしたいですね。究極的には......人が働かずに暮らしていける世界を作りたい。そうなれば誰もがもっと、ものづくりに挑戦しやすくなる。そんな世の中になったらいいなと思っています。