2016年12月27日
あきる野市に工房を構えるデザインエンジニアのナリタタツヤさんにお会いしてきた。
工房は一軒家の一室にあり、工作機械やPC、素材や工具などがおかれていた。
ナリタさんの活動範囲は「デザインエンジニア」の名が示す通り、多岐にわたっており、fablab渋谷のスタッフ、多摩美術大学や武蔵野美術大学通信教育課程の非常勤講師、Takramというクリエイティブ・イノベーション・ファームのデザインエンジニア、silo(サイロ)という名のオーダーメイド家具・雑貨・アクセサリショップの運営などがある。
silo:http://silo.tokyo/
Takram:http://ja.takram.com/?lang=ja
FabLab Shibuya:http://www.fablabshibuya.org/
たとえば個人の活動では、イラストレーターのPaiさんとのコラボで真鍮素材の栞(しおり)を作成したこともあった。これはイラストをPaiさんが描き、それをナリタさんがCNCで削り出してプロダクトにするというものだ。ちなみに青山の蔦屋で店頭販売し、即完売したとのことだ。
イラストレーターPaiさん:http://paisite.drawing.jp/
写真転載元サイト:http://tinker.jp/category/news/
ナリタさんとはFabLab Setagayaで知り合った。新製品「GOIGOI」の展示をした時だった。でも実は、その1年近く前にナリタさんの作品には出会っていた。その作品は「二重螺旋」という作品で、21_21 design sightで開催された「動きのカガク展」というイベントで展示されていた。
写真転載元:二重螺旋 / Double Helix
他にも木を削り出して作ったお皿や、アンティーク調のネックレス、鍵型の栓抜きなど、ナリタさんの技術のみならず美的センスが伺える作品もいくつか見せてくれた。
ナリタさんは幼い頃から、工作がともかく大好きだった。
というのも、ナリタ家は父親は釣竿をつくったり、母親は和裁をしたりと「ものをつくる」という環境が当たり前にそばにあったことで、特に意識することもなく自然と「つくる」ということが日常になっていたからだという。
fablabのスタッフをはじめたことによって「つくりたいけど作りたいものがない人っているのか...」とはじめて気がついたというほどだ。そのくらいに何かをつくることを当たり前だと思ってきた。
進学は多摩美術大学情報デザイン学科に進んだ。学生時代はメディアアートに近いジャンルの電子工作での作品制作を学び、卒業制作には「テンキパン」というトースターの作品を制作した。このテンキパンがナリタさんの作品制作の原点となっている。テンキパンは、朝食に焼くパンの焦げ目を利用して、その日の天気をパンに焼き込んでくれるという作品だ。ネット上で更新されている天気情報を焼くたびに取得し、焼き加減にアサインすることで、朝食でパンを食べながらその日の天気を知ることができる。
写真転載元:テンキパン(Toaster to understand today's weather)
ナリタさんはアーティストとしてものを作るときには「出来上がる作品そのものよりも、それが起こす現象に興味がある」と取材中にも話してくれた。このテンキパンはそうしたナリタさんの制作姿勢を体現した若き頃の作品なのだろう。アイデアがほんとに素晴らしいと思わされた。
そんなナリタさんは当社のKitMill RD300をあらゆる日々のお仕事に活用してくれている。
たとえば、大きな依頼案件の場合に自宅で試作をすぐにつくって打ち合わせに持って行ったり、ご自身の真鍮を用いた作品制作など、わざわざ外注に出さずとも自宅で切削加工ができることが非常に便利だと言ってくれていた。
photo by Kazuomi Furuya
また、自宅にKitMill RD300を導入してから「モノの価値」の見方が変わったという。自分で切削加工を行う中でエンドミルの径からはじまり、素材の選択や設置方法、エンドミルの動かし方などあらゆることを考慮しなければならないということを知ったからである。それまでは街中などで見かけた「これかっこいいなぁ」と思ってたものでも「あれ?待てよ、これレーザーでカットしただけじゃないか...」といった具合に「どれだけ手が込んで作られているか」にも目を向けるようになったという。
ナリタさんは「なんでもつくれるからなんでも作っていいというわけではない」と考えてきたという。「ゴミ」をいくらつくってもそれはやはりゴミでしかなくて(言葉は悪いけど)、そのプロダクトが人に価値や楽しい体験、感動を与えるものでなければいけないと思っているという。
この考え方には共感させられる部分があった。前述で「出来上がる作品そのものよりも、それが起こす現象に興味がある」と言っていたこととも通じていて、その作品がそれを用いた人間にどのような感動を与えてくれるのか、どんな新しい体験をさせてくれるのか、という視点を大切にすることで「不要なもの」をつくり出してしまうことは少なくなる。
また、「作品が引き起こす現象」から逆算してプロダクトをつくることでその形状や機能にも無駄がなくなり美しいものになるということも言える。
作品制作をする際についついそのプロダクト自体の構想から入ってしまいがちだが、思い切ってこの逆算的な考えを持つことで思いもよらない形のものが生まれることもあるだろう。たとえば、FabLabShibuyaとしてドローイングアンドマニュアル株式会社とコラボレートして手がけたプロジェクトとしてISSEY MIYAKEのショーウィンドウ作品「折りの海面」というものがある。この作品は、複雑な折にランダム制御された光が投影されて、陰影での形を変えるというものだ。プロダクト自体の形状は変わっていないにも関わらず、陰影が変化することで様々な表情が見られるというものだ。
写真転載元:132 5. ISSEY MIYAKE 「折りの海面」
近年になり「fab」というものづくりの新たな在り方を示す単語が日本でも多く言われるようになってきている。一方で「ものづくり」という単語は少しずつだが影を潜めてきている印象だ。
このことは、このナリタさんのように「ものづくり」という単語ではくくり切れない、個人でマルチに活動する「クリエイター」が出てきたことを意味しているのだと思う。当然「ものづくりの精神」は今も生きている。しかしその表現するものが変わったのだろう。
当社は創業してから20年以上もの間、個人のつくり手の文化に貢献しようと様々なサービスや、製品を提供してきた。だからこそ、このナリタさんのような存在に出会えることは、とても嬉しく感慨深いものがある。
15年前を振り返ってみてほしい。15年前には存在していなかった職業や立ち位置が、今ものすごい勢いで開拓されはじめてきている。おそらくは、15年前は個人のつくり手が社会の中心ではなく、町工場や大手企業が中心であったように思う。それが今は逆転してきている。それは大型工具や工作機械の卓上化が可能になったこと、それとなによりもインターネットの発達が背景にあるのだろう。今後この業界がナリタさんのような「デザインエンジニア」と言われる新たな立場のクリエイターの登場によって、どのような変貌を遂げ、進化していくのか楽しみだ。
ナリタタツヤさんのアーティストサイト:http://cutarena.com/
ナリタタツヤさんのものづくりサイト:http://tinker.jp/
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