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「時代が変わっても再現できるものをつくりたい!」MATHRAXの久世さんと坂本さんに会ってきた!

2016年03月22日

ものづくり文化展2015に作品をご応募くださった、MATHRAX LLC.(合同会社マスラックス)の久世祥三さんと坂本茉里子さんの元へ取材に伺った。私の久世さんに対するイメージは、「モヒカン刈りでヤンキー座りをしている怖い人」である。ご存知の方もいると思うが、久世さんのツイッターのプロフィール写真がそれなのだ。眼を飛ばされて終始威圧されるのではないかと、内心冷や冷やしながら伺った。しかし、実際に久世さんにお会いしてみると想像していたイメージとは真逆・・・物腰の柔らかい、見るからに優しそうな方だった(話してみると実際に優しい)。お二人は近年、動物をモチーフにしたぬくもりのある作品をつくっている。まさにそのイメージとぴったりなお人柄であった。

久世さんと坂本さんは2009年ころから一緒に仕事をするようになったそうだ。久世さんは主に開発を担当し、坂本さんはデザインやディレクションを担当されている。「久世の活動がとても面白いのに知られていないのは勿体ない」坂本さんはそんな思いで久世さんを支えている。私は以前からMATHRAXさんのWEBサイトのデザインや写真がとても美しくて素敵だと感じていたのだが、それは坂本さんの制作によるものであった。

これは取材に伺った前の週まで資生堂に展示されていたという作品「language」。花の形をしたオブジェ(写真:右下)が3つあり、それぞれドライフルーツの香り、はちみつレモンの香り、グリーンハーブの香りが放たれるようになっている。不思議なことにその3つの香りが混ざるとバラの香りになるのだそうだ。動物のオブジェと花のオブジェは無線で連動しており、動物たちを撫でると何とも心地よい音がするとともに花からは香りが放たれる仕組みになっている。

なんとMATHRAXさんは当社のCNCを3台も所有してくださっている。機種はそれぞれPRX、BT、CIP100だ。MATHRAXさんのつくる作品は、材料が木材で、木目調を活かしたぬくもりのある作品が多いから、どうしても3Dプリンタというわけにはいかない。

木というのは金属と違って柔らかいから削りやすい材料ではあるのだが、それゆえに反りなどがあったりして精度よく加工するには厄介なトラブルに見舞われることが多い。しかしこの動物のオブジェのかわいい背中をよく見ると、4つに分割してつくられていて、しかも中は電子回路を入れるために空洞になっているにも関わらず、その継ぎ目がわからないほどピッタリにつくられていた。おそらくここまで上手に加工できるようになるには、相当な数の試行錯誤があったに違いないと私は思った。

私は久世さんに直接お会いしたのは今回が初めてだが、実は10年近く前に久世さんのつくったWEBサイト「久世に訊け!!」をよく拝見していた。いまはそのサイトは更新していないそうだが、当時久世さんは、勤務先の多摩美術大学で学生さんから同じような質問ばかりを受けるので、その回答集としてこのサイトをつくったそうだ。今でこそ電子工作に関する情報はネット上に豊富にあるが、当時はまだ少なかったから学生さん以外でもこのサイトにお世話になった人は多いのではないだろうか。久世さん自身もこのサイトの記事を書くことで知識がより向上したのだという。ただ、学生さんからの質問があまりに多いため、途中で「久世に訊くな!!」というタイトルに変更しようかと思った時期もあったそうだ(笑)

それから社名の「MATHRAX」の語源について聞いたところ、なんと出身校の応援歌に出てくる「勇者九州男」の当て字なのだそうだ。勝手に数学を連想していたが、まさか漢字の当て字だとは思ってもみなかった。その言葉には「硬い誓い」という意味があるらしく、会社を設立した以上は簡単にはやめないという意味が込められているそうだ。

MATHRAXさんの作品は、CNCとか電子部品といった「カチッ」としたツールやデバイスを使いながらも、それとは反対の「ぬくもり」「温かみ」「ほんわり」「やさしさ」といった世界観が演出されている。私の知る限りこのような作品をつくる方はとても稀だ。このLED基板も、素材はカチッとしたものばかりなのに、そうした世界観が見事に演出されている。単なるイルミネーションとは明らかに何かが違うのだ。このLED基板の発光色は、夜景を写真に撮りその色情報をマイコンに焼き込んでいるという。三角形の基板を12個組み合わせて星の形になっているが、基板はそれぞれ独立していて、自由に組み合わせができるようになっている。基板同士が光り方の情報を通信しているそうだ。

MATHRAXさんは「アーティストやデザイナーのためのエンジニア」としての活動も行っている。これはきゅうりを上下させるモーターの装置。きゅうりという精度とは無縁なものが、こうしてステッピングモーターや直動機器で動くところが面白い(笑)。ショーウィンドウのディスプレイ作品として動作機構の製作を依頼されたのだという。下記が完成後の写真。

▲ハジメテン "ワクワクドキドキ夏休み" 阪急うめだ本店

最後に「将来どのようなものを作っていきたいですか」と伺ったところ、「時代が変わっても再現できるものをつくりたい」とおっしゃっていた。それはどういう意味かというと、以前久世さんは油絵をやっていたそうだが、ふつう油絵というと上手に保存すれば何百年もそのままの状態を維持できる。メンテナンスも数十年単位でよい。ところがデジタルの世界は変化が目まぐるしく、せっかくこだわりを持ってつくったものでも、わずか数年で動きのタイミングが変わってしまったり、使えなくなってしまうことがある。実際に久世さんはAdobeのDirector(当時はMacromedia社)というソフトウェアが廃れてしまったことで、作品が再現できなくなってしまったことがあるそうだ。こだわりを持ってつくってきたものだけに、久世さんにとってはそれがとてもショッキングな出来事だったという。あまりにショックすぎてなんと本気でパン屋さんに転職を考えたそうだ。そしてその求人記事を探し「未経験でもオッケー」と書いてあったパン屋さんに電話してみた。ところが未経験だということを伝えたら「そんな人いらない。そんな余裕ない!」と断られてしまったそうだ。その理不尽な返答にまたしてもショックを受けてしまった久世さんだが、これが人生のターニングポイントになった。自分が進む道はデジタルしかないと腹が座った。パン屋さんに断られたからこそ、本気でこの世界に進もうと決意を新たにしたきっかけになったのだ。

そのぐらい久世さんにとっては、「時代が変わっても再現できるものをつくりたい」ということが重要なのである。だから、ご自身のつくるものは電池ボックス一つとってみても、市販のプラスチック製のものは使われていない。わざわざ木でつくったものを使っている。こうすることによって、もし電池ボックスが廃盤になっても元通り再現することができる。そのぐらい徹底的にこだわっているのだ。さらに中に組み込んである電子回路も、どうしてこういう仕組みになっているのかということを根本から理解するようにしている。何がなんだか仕組みがよくわからないという状態では絶対に使わない。徹底的にどんなことがあっても自分で再現できるようにしているのだ。

私はその徹底ぶりをみて、久世さんの作品づくりに対する「こだわり」は半端なものではないと思った。こだわりを持ってつくっているからこそ、たとえ部品の廃盤や環境の変化があろうとも、いつまでも同じ状態で人に見せることができるようにしたいのだろうと思った。私も「製品」を販売する立場上、部品の廃盤などがあっても安定して同じものを提供したいという思いはもちろんあるが、やはり油絵のようにはいかない。しかし、MATHRAXさんたちがつくるような「作品」は、油絵と同じようにそれを見る人の心に何らかの影響を与えるためにあるものだ。だから長期にわたって状態を維持できることは「製品」よりも大切なことなのだろう。「時代が変わっても再現できるものをつくりたい」とても優しくて温かい人柄の久世さんも、そのことに対しては硬く強い思いを持っている。そう感じた取材であった。

撮影させて頂いた写真一覧はこちらからご覧になれます。

MATHRAXさんのWEBサイト:MATHRAX.LLC
ものづくり文化展2015にご応募いただいた作品:language
ものづくり文化展2011にご応募いただいた作品:Rhinon(らいのん)

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