創業者メッセージ
創業者メッセージ

デザインとサイエンス

私たちにとっての「デザイン」とは、「いかにユーザーをワクワクさせるか」。その一点に尽きます。

技術者というのは、「仕事だから」という理由だけで、ものづくりをしているのではありません。
多くの技術者は、子どものころにプラモデルを組み立てたり、ミニ四駆を走らせたり、ロボットを作ってみたり、そうした、技術に対する「純粋な好奇心」が原点にあります。
その感覚が、今も彼らを突き動かしているのだと思います。

だからこそ、私たちが提供したいのは、ただの便利な道具ではありません。
「つくりたい」という気持ちを呼び起こす製品です。

では、それをどうやって実現しているのか。
その答えのひとつが、「卓上で使えるコンパクトさ」です。
製造現場ではなく、自宅やオフィスといった、アイデアの浮かびやすい、静かな環境で、思い立ったときに、すぐにカタチにできる。
ものづくりが好きな人であれば、それだけでワクワクしてきます。

さらに、私たちの製品は、単にサイズが小さいだけではありません。
自宅やオフィスに置いても「違和感のない佇まい」。触れたときに伝わる「落ち着いた質感」。そして、構造そのものの美しさがもたらす「所有する誇り」。
使い心地やメンテナンス性にいたるまで徹底してこだわっています。

もう一つ、当社が大切にしているのが、コンパクトな機体でありながら、フレームに鋳物を使用していることです。
鋳物は振動を抑え、加工時に「サクサク」という快い感触を生み出します。
これはスペック表には現れませんが、技術者たちは確かに感じ取ります。
この使い心地は、まさにワクワクの源泉です。

では、そもそも「ワクワク」とは何でしょうか。
技術者にとってのワクワクとは、まだ形になっていない「新しい何かが生まれようとする兆し」を感じたときに沸き起こる感情だと思います。
私はこのワクワクを、「創発の予兆」と捉えています。

「創発」とは、それぞれの要素にはない性質が、結びついたときに立ち上がる現象です。たとえば、水素と酸素という二つの気体が組み合わさると「水」という全く別の性質が現れる。
また、細胞一つひとつには存在しない「感情」が、人間という全体になったときに立ち上がる。
自然界のあらゆる存在は、この創発によって形づくられてきました。
私たち人間も、その営みの中に生まれた存在です。
技術者たちが「新しい何かが生まれようとする兆し」に惹かれるのは、
技術やアイデア、パーツ、道具など、関係するあらゆる要素が結びつくことで、
これまで存在しなかった「新しい性質」が立ち上がろうとする気配を感じ取るからです。
その瞬間が創発と同じ構造をもつことを、無意識に知っているのでしょう。

だから私たちにとってのデザインとは、
技術者たちが製品を目の前にした瞬間、そこに「創発の予兆」を感じ、
思わず「つくってみたい」と心が動き出すように仕掛けるための装置なのです。

もし、私たちが製品づくりにおいて、そのワクワクを失ってしまったらどうなるか。
おそらく、ただ「便利な道具」をつくる会社になるでしょう。
しかし、私たちはそれ以上の存在でありたい。

そのためにも、ほかの技術者たちと同じように、私たち自身もワクワクに従ってつくる。
その姿勢こそが、私たちを単なる道具屋ではなく、「つくりたいという気持ちを支える存在」にしてくれると信じています。

最後に、サイエンスについて触れたいと思います。
これまでのサイエンスは、ものごとを細かく分解する要素還元的アプローチで世界を理解しようとしてきました。その成果は計り知れません。
しかし、今後はその方法だけでは限界があると感じています。
大切なのは、要素そのものではなく、結びついたときに立ち上がる「全体のふるまい」です。
創発は、まさにそのときに起こります。

分解ではなく、つながり。
要素ではなく、立ち上がり。

私たちの製品づくりはサイエンスそのものではありませんが、この「創発の流れに沿って理解する視点」は、これからの時代において、とても重要になると感じています。
そして、その感覚はデザインとも深く調和しています。

デザインとサイエンス。
つくる心と、世界を理解する力。

その二つが響き合うとき、新しい創発が生まれ、次の時代をひらくと信じています。

2026年1月 中村 一