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2019年度 第9回「ものづくり文化展」最優秀賞
熊谷文秀 インタビュー

インタビュー : 中村一、深沢慶太 構成 : 深沢慶太 撮影 : 菅原康太 | 2020.03.06

最優秀賞『DIALOG MACHINE』
アルファベットが刻まれた16個の文字リングが回転し、「GOOD MORNING!」や「HAVE A NICE DAY!」など16文字以下のメッセージを表示する作品。綴られるメッセージは250種類の中から、朝夕など時間帯に合わせてランダムに選択される。外装や機構には主にMDF(中密度繊維板)を用いながら、綿密なエイジング塗装によって錆びた鉄のような風合いと、機械としての存在感を表現している。

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熊谷文秀(くまがい・ふみひで)
1964年、青森県生まれ。札幌市在住。北海道教育大学札幌分校特別美術科卒。公共施設などに設置された彫刻作品、からくり仕掛けまで、幅広い作品を制作。これまでの主な受賞歴に、87年「アトリエ・ヌーボー・コンペ」福田繁雄賞、89年 同 坂根巌夫賞、94年「パルコ・アーバナート#3」パルコ賞 & 伊藤隆道賞、95年「朝日現代クラフト」優秀賞、17年「UBEビエンナーレ」実物制作指定、17、18年度「ものづくり文化展」最優秀賞、2020年「KAJIMA彫刻コンクール」金賞などがある。

異彩を放つ"鉄の作品シリーズ"史上、最高難度の大型作品

――― 2017年度の『潜望鏡のせんちゃん』、18年度の『RUNNER/ランナー』に続いて、3回連続の最優秀賞受賞となりました。どの作品も錆びた鉄の質感や機械的な佇まいという点で、一貫した世界観を感じさせます。

ありがとうございます。普段、仕事として制作している作品は公共施設に設置するレリーフなどが中心なのですが、この"鉄の作品シリーズ"は、完全に個人的な作品として制作しています。今回はシリーズ中で最も大きく、構造としてもプログラム面でも一番複雑な作品になりました。

2017年度「ものづくり文化展」最優秀賞受賞作品『潜望鏡のせんちゃん』

2018年度「ものづくり文化展」最優秀賞受賞作品『RUNNER/ランナー』

――― 今回の作品のコンセプトについて教えてください。

それが......自分は主義主張よりも、形から入る質(たち)なんです。発想としては、ドラムがくるくる回って文字が表示されるイメージが閃いて、「格好いいな」と思ったことがきっかけですね。昨年の「ものづくり文化展」のインタビューでも予告していますが、基本的な構造は『RUNNER/ランナー』をふまえつつ、より発展させたものにしたいと考えました。
制作の直接の動機は、札幌の展示スペース「アートボックス」の公募コンペに応募したこと。これはJR札幌駅と直結した商業施設「JRタワー」のコンコースにある、ショーウィンドウのような空間で、2019年の3〜5月にかけて展示していただきました(※1)。なので、その空間にぴったりはまるようにワイド2300mm、天地1300mmで制作しています。展示の搬入・搬出時のことも考えて、自分の車に収まるように設計段階から全体を9分割してCAD上でシミュレートしました。さすがに大きくて、ギリギリのサイズでしたね(笑)。

――― 動きのある作品で、展示期間が3カ月に及ぶというのは、メンテナンスや耐久性を考えても大変なことだと思います。

動くものにどうしても付いて回るのが、"壊れる"という宿命です。いつも展示をする前には「うまく動いてくれ」と柏手を打ってからスイッチを入れるジンクスがあるんですが......今回も設置から1週間はトラブル続きで、分解しては微調整の繰り返しでした。2週目からようやく落ち着いてきたものの、途中でモーターを交換しています。マブチモーターを朝から晩まで回しっ放しにしているため、ブラシの摩耗が激しくて。カーボンブラシに交換してからは、モーターのトラブルも減ってホッとしました。

――― 数多くの人の目に触れる公共空間での展示ですが、反応はどうでしたか?

とてもいい感触でした。表示されるメッセージが毎回ランダムに変わるので、通勤の途中で「今日は何だろう」と足を止めてくれる方や、「地中の遺跡からメッセージを発しているマシンのようだ」と、僕が考えた意図以上に深読みしてくれる方もいましたね。

(※1)「アートボックス」での展示情報(JRタワー公式サイト内)

アルファベットを1文字ずつ型抜きした大型のリング。
回転の組み合わせによって250種類のメッセージを表示する。

「歯車にワクワクする」感覚が生み出す噓のない造形

――― 審査にあたってのポイントでもありますが、これからのものづくりには機能や性能だけでなく、精神的な豊かさや心に訴えかける要素が必要だと思います。その点で『DIALOG MACHINE』には、非常に情緒的なものがあると感じました。

ありがとうございます。自分のスタンスとしては彫刻や立体造形を基本として、そこにテクノロジーを加えることでより面白い演出をしたいと考えています。というのも、表現性と技術のどちらか一方が優れている人はたくさんいるけれども、両方を同時に追求している人は多くない。であれば、そこに自分が勝負できる持ち味があるのかなと。その点で、自分の作品を一番評価していただけるのが「ものづくり文化展」だと思っています。とはいえ、今年も賞をいただけるとはまったく考えていなくて......受賞の報せに「まさか!」と思いましたね。もちろん、自分の中で格好いいと思えるこだわりを詰め込んだ自信作ではありましたが、あくまで応募作品に少しでも花を添えることができたらという気持ちでした。だからこそ、受賞できて本当にうれしいです。

――― ありがとうございます。熊谷さんならではの世界観に加えて、思わず見入ってしまうような魅力のある作品だと思います。一見して「動力は何だろう?」と思わせるような、オーパーツやチームパンクにも通じる造形美がありますね。

スチームパンクを意識しているわけではないのですが、油の匂いがしそうな機械の佇まいや、歯車が噛み合って動く姿にワクワクしてしまう感覚を表現しようとしています。というのも、もしこれが画面の中のCGだったとしたら、まったく心に引っかからないと思うんです。だからこそ、自分がものとしての魅力を感じる要素――例えばフランジやリブ、六角形のネジの頭、バルブのノブの形とか、配管のジョイントなど、ワクワクする要素を入れ込んでいますね。
ただ、単に見た目だけバルブの形を使うようなことはしたくない。「バルブがある以上は、ここに配管がないと辻褄が合わない」といったように、自分の中でストーリーをしっかり作り込むことで、たとえ作りものであってもそこに嘘がないようにしたいんです。大きな主義主張はないけれど、機能のある形が動いている様子にワクワクする感覚を、見る人たちにも感じてほしいと思っています。

緻密なまでの作り込みによって世界観を追求。
トラス部分の造形のR加工などもMDF素材で表現している。

"ものづくり=生きること"。その想いで拓く新たな展望

――― その上で、木を素材として使いながら、あえて金属の質感を追求している理由はなんでしょうか。

本当は金属で制作できたらいいのですが、そうすると重さも桁違いになりますし、制作費も大変な金額になってしまいます。それで今は主にMDF(中密度繊維板)を自前のレーザーカッターで切り出しているのですが、木である以上、保管や移動の際にどうしても歪みが出てしまうのが難点ですね。
でも、いずれは動く鉄の彫刻を作ってみたい。これまでにもモニュメントとして動く作品を提案しては、耐久性とメンテナンス費用を理由に断られてきました。でも12年に室蘭市立北辰中学校の玄関ホールのモビール作品『VoyageⅡ』を手がけた時に、"鉄の街"にちなんだ作品にしたいと思い、風で動くように軽量化と安全性を考慮してスタイロフォームに発泡塩ビ板を貼り付け、錆びた鉄のような塗装を施しました。この時の技術が、"鉄の作品シリーズ"に生かされているというわけです。

鉄錆びのリアルな風合いはエイジング加工によるもの。
ネジは実際に錆びを施したものを使用している。

――― さらに、動きにも大きなこだわりを感じます。例えば、メッセージの最後の1文字がカタッと遅れて表示される仕掛けには、どんな意図を込めていますか。

作品を作る上で、あざとくない程度に愛嬌や可愛さを感じさせる要素を入れておきたいと考えています。完璧に動いてみせるよりも、どこかしら感情移入できるようなところ......可愛くて、でも生意気で、がんばっている感じが伝わったらいいなと。
最後の1文字については、モーターのスピードが速すぎて止める際に行き過ぎてしまったため、手前で止めてからゆっくり調整するプログラムを組んだのがきっかけです。この問題はモーターを別の機種に変えることで解決したのですが、動きとして心惹かれるものがあるなと思い、あえてプログラムで表現しています。制御には「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を使っていますが、1年前に『RUNNER/ランナー』で初めて使った時は順繰りの動作で、センサーもスリットを感知して裏のLEDが点くだけの仕組みでした。今回の作品では制御する内容が増えた分、Raspberry PiにいろいろなICをくっつけて拡張しています。技術的にも表現的にも「ものづくり文化展」に育てていただいたからこそ、できることが増えてきたと感じています。

――― 最後に、熊谷さんにとってものづくりとは何でしょうか。

ものづくりがなかったら自分は、生活面でも常識的にも社会人としては本当にダメな人間になってしまう。それはもう、とても恥ずかしくて表を歩けないくらい。なので、ものづくりは僕が人間として生きるために必要なものです。ものを作っていられるから、まだかろうじて人並みに胸を張れるものがある。ものづくりだけが僕にとっての生きる糧であり、作品を「格好いいね」と言ってもらえることが一番の喜びです。
だから今回、こうやって評価していただいたこと自体が、僕にとって大きな喜びになっています。この気持ちをバネにして、今後も新しい表現に挑戦していきたいと思います。

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